判断能力のない子の行動に対する親の責任 2

<ポイント>
◆子の行動について親が賠償責任を問われる場面が限定された
◆子の行為について周りに対する危険が通常あるといえるかが重要

1年以上前になりますが、「判断能力のない子の行動に対する親の責任」というタイトルで、ある事案を取り扱いました。小学校の校庭で6年生の子がゴールに向かってボールを蹴っていたところ、ボールが道路に飛び出し、たまたまオートバイに乗ってやってきた高齢者(85歳)がそのボールを避けようとして転倒し(以下「本件事故」)、その際の負傷が原因で亡くなったという事案です。
平成23年6月27日に大阪地方裁判所で、平成24年6月7日に大阪高等裁判所で判決が下されましたが、その内容はどちらも親に損害賠償責任があるというものでした。
これを受けて親が最高裁判所にあらためて審理を求めたところ、平成27年4月9日に判決が下されました。地裁や高裁の判断とは逆に、親に責任はないというものでした。新聞などでも大きく報道されましたので、ご存じの方も多いのではないかと思います。

これまでの流れを振り返りますと、親は「普段から一般家庭と同じく子に教育・しつけをしてきたのだから監督義務違反はない。それに、校庭にサッカーゴールがあり、放課後サッカーをすることが禁じられていなかったから、ゴールに向かってサッカーボールを蹴らないよう子を監督する義務があったとはいえない。」と主張してきました。
しかし地裁や高裁の判断は、「子供が遊ぶ場合でも、周囲に危険を及ぼさないよう注意して遊ぶよう指導する義務がある。校庭で遊ぶ以上どのような遊び方をしてもよいというものではないから、この点を理解させていなかった点で、親権者が監督義務を尽くさなかったものと評価されてもやむを得ない」というものでした。

「子に対し、周囲に危険を及ぼさないよう注意して遊ぶよう指導する義務」を強調すると、子の行動によって他人に損害が生じるとほとんどのケースで親が責任を負うことになりそうです。最高裁判所は、そのような結論を避けるために、後述するとおり義務違反とされる場面を限定して反対の結論を導き出したといえます。

最高裁の判断を要約してみます。
子は、児童のために開放されていた校庭で、使用可能なゴールに向けてフリーキックの練習をしていたにすぎない。校庭の日常的な使用方法に従ったものである。
また、ゴールにはネットが張られ、その後方約10mの場所には校庭に沿って門やネットフェンスなどが設置され、これらと道路の間には幅約1.8mの側溝があったのであるから、ゴールに向けてボールを蹴ったとしてもボールが道路上に出ることが常態であったとはいえない。子が殊更に道路に向けてボールを蹴ったなどの事情もうかがわれない。
責任能力(行為について何らかの法律上の責任が生じることを理解する能力)のない子の親は、直接の監視下にない子の行動について、「人身に危険が及ばないよう注意して行動するよう、子に対して日頃から指導監督する義務」があるといえる。しかし、サッカーゴールに向かってフリーキックの練習をすることは通常人身に危険が及ぶような行為とはいえない。
そして、通常は人身に危険が及ぶものとはみられない行為によってたまたま人身に損害を生じさせた場合は、具体的に予見可能であるなどの事情がない限り、子に対する監督義務を尽くしていなかったとすべきではない。
本件では子の両親は、危険な行為に及ばないよう日頃から子に通常のしつけをしていたというのであり、危険を具体的に予見できたという事情もないから、監督義務違反を尽くしていなかったとはいえない。

親が子の監督責任を問われる場面を限定したといえ、子の起こした事故の賠償問題に大きく影響を与えるといえそうです。